サンドバッグを相手にするよりも、本物の貴方に相手をしてもらいたいんです。
それでは、私のわがままでしかないと分かってはいるけれど・・・





「喰らえぇっ!!」

ゴスっドスっ
低い唸りをあげた拳が天井から吊されたサンドバッグの腹にきまってゆく。
クロユリ中佐特製のサンドバッグはいつも何故か殴り心地が良い筈なのだが、今日は殴っても殴っても何故だか気持ちがすっきりしない。
理由なんて・・・分かり過ぎるくらい分かっているからなおさら腹が立つ。

「っ少佐の馬鹿ぁぁ!!」

どれだけ頑張ってもヒュウガ少佐は書類仕事が嫌だと言って姿をくらませてしまう。
なのに実戦任務が与えられた瞬間、誰よりも先に飛び出して行ってしまう。 今日だって・・・

「なにも置いてくことないじゃないかぁ!!」

人が城塞内を探し回っていた時にアヤナミ様から任務を受けたらしく、一人で街へ出て行ってしまった。
罪人が数人で立て篭っているという少佐なら一人でもお釣りが来るような簡単な任務だと後でアヤナミ様から聞いたけれど、それでも腹が立つことに変わりわない。

だって私はあの人のベグライターなのに。
あの人の補佐をしてあの人の背中を守ることが存在意義なのに。

確かにあの人は強いし、私なんかついて行くのでやっとなのは分かっている。
正直足手まといになってしまう時もある。

けれど悔しくて寂しくて。
どうしようもならない気持ちをなんとか紛らわせたくてサンドバッグを殴ってみたけれどこのモヤモヤが晴れることはない。

「私が・・・弱いから・・・」

私がもっと強かったなら。
私が、少佐と並んでも見劣りしないぐらいだったら。
少佐は私を置いていかなかったのかな?

そう思うけれどどうしようも出来なくてサンドバッグを殴り続けていたら天井から吊していた紐が千切れてしまい、大きな音を立ててサンドバッグが落ちてしまった。
しばらく床に転がったさを眺めていたが、何故だろう、ふいにそれに顔を埋めたくなってしまった。

きっと疲れていたんだろうし、きっと形が大きな抱き枕に似ていたせいだ。
気がつくとサンドバッグを抱き枕のようにして顔を埋めていた。

「少佐の馬鹿・・・」

サンドバッグを思いっきり抱きしめて、どうにもならない気持ちを吐き出すと、いつの間にか瞼が落ちていった。










「ただいまー☆
 ってコナツ?」

任務から帰ってきて一番に見たのはきゅう、とクロユリ特製のヒュウガっぽい(あくまでぽいと言い切る)顔が描かれたサンドバッグを抱きしめて眠っているコナツの姿。
顔らしきものが描かれた少し下、人形で言うならば胸の辺りに顔を埋めてスヤスヤと寝息を立てている己のベグライター。

「かーわいい〜☆」

任務から帰ってきて早々にクロユリ中佐にコナツが荒れてるから早く謝りに行けと急かされてしぶしぶここに来たけれど、良い物が見られた。
でも・・・

「起きないねぇ・・・」

人の気配に敏感なコナツがここまで寝入ってしまうなんて珍しい。
すべすべの白い頬をつつくと僅かにみじろぐが、一向に起きる様子がない。

「やっぱり疲れてたんだねぇ。」

上層部の馬鹿どもが嫌がらせに送りつけてくる参謀部と全く関係のない書類に追われて寝不足のベグライターにサボりまくりの俺は少し悪い気持ちになってしまった。
けれどそんなことを思う以上に気になったことが・・・

「なんか腹立つなぁ・・・」

スヤスヤ眠るコナツはとても可愛いが、時折スリスリとサンドバッグにほっぺたを擦りつけたりぎゅうっと抱きしめ直したりしている。

「しかもなんか幸せそうに見えるし・・・」

相手はただのサンドバッグの筈なのに、描かれた顔がなんだかにやけているように見えるのは気のせいか?
可愛いコナツはとてもいい感じに嬉しいんだけれど、抱きつく相手が間違ってないかな?
そんなモヤモヤを抱えてコナツを見ていると・・・

「しょうさぁ・・・」

「!?」

寝ぼけたつたない声が俺の事を呼んだ。
コナツが呼ぶ少佐が指す所は勿論俺の事しかない、当たり前だ。
と、言うことは・・・

「寂しかったんだねぇ。」

一見しっかり者に見えるコナツだけど実は寂しがりやで居場所を欲しがる可愛らしい子だって事は俺しか知らない。
今日は多分俺がコナツを置いて行ってしまったから寂しかったんだろうなぁ・・・

疲れてるからと思ったことが裏目に出てしまったようだ。
クロたん曰く、俺のことを馬鹿だと言いながら殴ってたみたいだし・・・

そんなコナツをこのままにしておくのは俺の心境的にも、風邪を引くかもしれない状況的にも悪かったから、ちゃんとしたベッドに寝かせてあげようか。
軍人なのにきしゃな身体を抱き上げる。
すると・・・

「しょうさぁ・・・?」

「!?  ・・・なぁに?」

さすがに体勢が変わってしまった事で目が覚めたのか、でも眠たげな目を必死に開けてとろけそうな蜂蜜色が俺を見つめる。
ヤバい、色んな意味で食べてしまいたい・・・

「なんで・・・私を置いて行くんですか?」

あぁ、やっぱりそうだったのか。
寝ぼけていつもなら絶対に言わないような甘えたこと(ってコナツは言うだろうけど俺としてはもっと甘えてくれたって大歓迎なのに・・・)を言うコナツ。
そんなコナツの頭を撫でてあげながらコナツの耳元に優しく言ってあげる。

「コナツが疲れてたみたいだったから・・・
 でもごめんね、寂しかったね?」

そう言うと寝ぼけていても恥ずかしかったのか、俺の胸にぎゅうっと顔を埋めてしまった。
そんなコナツをあやすように抱きしめ直してあげる。

「ごめんね、今度はちゃんと一緒に行こうね。」

「やくそく・・・ですよ・・・」

きゅう、と首筋に回してきた腕はしばらくすると弛くなって小さな寝息が聞こえてきた。
そんなコナツがますます可愛いくなってぎゅうっと抱きしめベッドのある所に連れてゆく。





ほらね、サンドバッグなんかより俺の方が断然いいでしょう?
・・・なんて床に転がるサンドバッグに心の中で言いながら。

















DVD4巻に付いてるブックレットの4コマネタです。
さびしんぼなこなちゅがあれに抱きついて寝てたらきっと可愛いvvv
つーかやってそうだよね!
んで少佐に嫉妬されるサンドバッグ(笑)
違う意味でお互いお子様なのですv
そしてこなっちゃんは霧立の妖精さん☆なのでした(キモイ)(2009/12/5 UP)