「あれ?
無い・・・」
資料を持って午後からの会議に向かう途中、不意にコナツが発した言葉にテイトの歩みは止まる。
「どうしたんですか?」
そう先輩ベグライターに聞くと。
「書類が一枚足りなくて・・・
昨日持って帰って忘れてきたかなぁ。」
そう言って胸に抱えた資料を何度もめくって見てみるものの、やはり探している資料は無いようで難しい顔をしている。
しかし就業中だけでも忙しいのに持って帰ってまで仕事をしているとは。
熱心な同じベグライターの先輩を尊敬し、そこまで書類を溜めさせた元凶であるヒュウガ少佐を後でアヤナミに怒ってもらおうと思ったテイトである。
「無いと困る書類ですか?」
何度も手持ちの分を調べるが目的の書類が見つかる様子の無いコナツ。
「うん、今日の会議の要点をまとめたものだから・・・」
あの人、長い書類は絶対に読んでくれないしと言われるコナツの上司の顔を思い浮かべると苦笑しか浮かばない。
昨日もアヤナミの執務室にノックも無しに入ってきて、アヤナミを怒らせていたのを思い出す。
まぁちょうど仕事が一段落して休憩でもしようかとテイトがお茶を煎れた時というタイミングの悪さ故に仕方ないとも思うけれど・・・
そんなコナツの影の努力にますます先輩ベグライターとして尊敬してしまう。
テイトにはそんな努力の結晶を無駄にしてしまうことが阻まれたのだろう。
「なら部屋まで取りに行きましょう。」
「え!?」
「大丈夫です、まだ時間はありますし。」
「あ・・・いや、その・・・」
確かに今二人がいる場所から下士官の宿舎はそう遠くない。
テイトの言う通りコナツの部屋まで行って帰ってきてもそう時間はかからないだろう。
しかし問題はそこではないのだ。
コナツは純粋な後輩に言える訳がなかった。
まさか自分に宛がわれた部屋はあるけれど今はほとんど物置状態で、毎日の寝起きは己の直属の上官の部屋だなどと・・・
士官用の宿舎は広く作られているので下士官用の宿舎より遠くにある為、戻ってくるのに時間がかかる。
全力で走ったところで怪しまれる要素ばかりだし、テイトの口ぶりからどうやらコナツについてくるつもりらしい。
それは困る、とても困る。
「えっと・・・」
言えない、置き忘れたのはヒュウガの部屋なのだと。
しかもコナツの着替えなどの生活必需品はすべてヒュウガの部屋にある上、持ち帰った書類もヒュウガの部屋でしか処理していない。つまり同棲しているのだ、ヒュウガとヒュウガの部屋で。
しかもベットは一緒。
そんなことテイトには言えないし見せられない。
「だ、大丈夫。
内容は覚えてるから・・・」
「そうなんですか!?
さすがコナツさんだなぁ。」
「あ、ありがとうテイト・・・」
苦しまぎれに言った言葉でもそう誉めてくれるかわいい後輩に渇いた笑いを浮かべるコナツであった。
今度から絶対に重要書類は忘れるもんか、そう心に誓いつつ。
「あれ?」
コナツの件からしばらく、次はテイトがそんな声を上げたのでコナツが足を止めてテイトの顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
そう困った顔のテイトに問い掛けると。
「万年筆が無くて・・・」
と、軍服の胸ポケットの当たりをごそごそと探しながらそう言った。
「え、テイトの万年筆ってアヤナミ様に貰ったって言ってた・・・」
「はい。」
コナツの言う通り、その万年筆はベグライターになった際にアヤナミから譲られた品で、テイトがいつも肌身離さず持ち歩いているものだ。
一介のベグライターが持つには少し高価な品であるが、テイトにとっての価値はアヤナミに貰ったという経緯なのである。
まぁベグライター就任までの道のりは色々あったが、今は幸せそうにしているのでいいとしよう。
「多分、軍服を脱いだ時に落ちたんです。
今日、寝坊して急いで着替えてきたたから・・・」
そういえば、とコナツは思い出す。
真面目なテイトが今日は珍しく遅刻ギリギリで執務室に駆け込んできたことを。
毎日の激務に流石に疲れるのも分かる。
コナツにも駄目だと思いながらも自室に帰ればそのあたりに軍服を脱ぎ散らかしてベットにダイブした数々の経験がある。
そして翌朝、焦って脱ぎっぱなしの軍服を纏って出勤するのだ。
その気持ちが痛いほど分かるだけになんだかかわいそうになってきた。
毎日の激務もそうだが、大切な万年筆をどこかに忘れてしまったショックは相当だと思う。
コナツがヒュウガから譲られた刀を忘れることは物の大きさ故に流石に無いけれど、それでも気持ちは分かる。
だからこそ・・・
「テイトこそ取りに戻った方がいいんじゃ・・・」
「えっ!?」
「だって大切なものだし、テイトも無いと思いながら会議に出るなんて嫌だろう?」
「それは・・・」
コナツの好意はありがたい。
けれどちょっと潔癖な所があるコナツに言えるはずがない。
昨日テイトはアヤナミの部屋に泊まったのだと。
しかも昨日散々抱かれたせいで寝過ごしてしまい、急いで散らばった服を着て出勤してきたのだ。
多分軍服を脱がされて床に落とされた時の衝撃で万年筆が落ちてしまったのだろう。
ぼうっとする頭でからん、と言う音を聞いた気がする。
あれは多分、万年筆だったのではなかろうか・・・
「大丈夫ですよ、普通のペンで。」
「でも・・・」
本当に心配だという顔でテイトを覗き込んでくるが、行ける訳がない。
アヤナミの部屋なんて・・・
「大丈夫です、軍服を脱ぐ前まで使ってたのはわかってますし・・・
俺の個人的な忘れ物で迷惑かけられないです。」
アヤナミに貰ったもの以外にも他のペンを持っているのだと必死に訴えるとコナツの方も流石に折れてくれたようで・・・
「そう?なら今日は早くあがって探すんだよ?
もし無かったら一緒に探してあげるから。」
「あ、ありがとうございます。」
ようやく引いてくれたコナツにほっと一息をついたテイトであるが、先程までのコナツの心境と今の心境が一緒であるとは知らないだろう。
けれど諦めてくれてよかったと心から思う。
コナツの性格的にあまり無理強いをするようなことはないし、それにコナツだってテイトが部屋に万年筆を探しに帰るのならコナツも書類を取りに行ってはどうかと進められるだろう。
自分の部屋になどあるはずの無い書類を・・・
それはお互い困ったことでしかなく・・・
「早く行きましょう?
アヤナミ様もヒュウガ少佐も先についてるかも・・・」
「うん。
ヒュウガ少佐はともかくアヤナミ様を待たせる訳にはいかないよね。」
お互い、隠しておきたい事情をかかえながら自分の上司が待つ会議室へと急ぐ二人だった。
けれど結局、同じような時に二人とも上司とお付き合いをしていることがばれて、どっちもどっちだと思ってしまったのはもうしばらく経ってからのこと。
アヤテイヒュウコナ前提のコナツとテイトが好きです。
かわいいよね!!
しかしやっぱりテイトの口調に迷走しています。
敬語・・・むずいね。
それにともなってなぜかこなっちゃんの口調も迷走してくる不思議。
あれだ、多分本編でこなっちゃんが自分より下の人との絡みがないせいだ。
全員上司で先輩だから崩した言葉遣いがわからないんだ。
ブラックホークにかわいい後輩ちゃんが入ってくればいいのにさ。
テイトちゃんみたいな(いや、ないから)
実は密かにミカみてのネタバレが入った今回のネタでした〜〜(2010/4/17 UP)