「ねえ、本当にあいつベグライターにするの?」
可愛らしい、しかし憎悪の篭った声が静寂を破った。
けれどその声が上がるのを想像していたのか、そこにいた彼らはただ黙って声の続きを待つ。

「あいつは・・・あいつはハルセをあんな風にしたんだよ?
 それなのに仲間にしろっておかしいよ!」

おかしいよ、何度も繰り返し紡がれるその言葉。
しばらくするとようやく答えが返ってきた。

「そうですね、確かにおかしいですね。」

優しく諭す低い男性の声。
その賛同の声の主に顔をあげた瞳が一瞬輝く。
けれどその瞳はまたすぐに曇ることになる。

「おかしいですが、決まったことですよ?」

自分に賛同してくれる筈の声が自分を攻めたことに不服の表情を浮かべた。

「で、でも・・・」

「クロユリ君、これはアヤナミ様がお決めになったことでしょう?」

「う・・・」

アヤナミ様がお決めになったこと。
何よりも尊敬するその人の名前を出されてしまえば何も言えなくなる。
彼は唯一手を差し延べてくれた人。
そのアヤナミ様がそう言ったのだ。

「分かって・・・る。」

分かっている。
アヤナミから指示された内容は理解している。
けれど、理解していても理性では納得できるものではない。

「でも、でもあいつは・・・あいつはハルセを動かなくしたんだよ!?
 それなのに仲良くしろなんて!
 ゼヘルだって確実に死んだ訳じゃないんだからいつあいつを取り返しにくるか・・・」

クロユリの言う事は間違っていないし、この場にいる誰もがその思いを理解できる。
クロユリにとってアヤナミとは違うが、それと同じぐらいにとても大切な人物が意識もなくただ生きているだけの状態にした元凶なのだから。
けれど・・・

「でもクロユリ君、ハルセ君ちゃんとは帰ってきたでしょう?」

「クロユリ様・・・」

「ハルセぇ・・・」

そっと傍にいた小さな体を包み込むように大柄な青年がその肩を抱いた。
それにたまらなくなったのか、胸に顔を埋めてぎゅうと服の袖を掴んだ。
まるでもう何処にもいくなというように。

「クロユリ様、私ならもう大丈夫ですから。
 アヤナミ様のおっしゃった事は十分にこなせます。」

「でも・・・」

個人的な感情は誰よりも何よりも優先すべき彼の前ではいらないもの。
それは分かっている。
この感情を抑えるべきだということも、分かっているから今まで小さな身体で堪えてきたのだ。
それは悪いことではないし、今まで耐えてきたことは称賛してよいだろう。
その気持ちを吐き出す事も悪いことではない。
けれど、吐き出した後にすべき事は・・・

「ハルセ君の言う通りです。
 それに、例えゼヘルが来たとしてもその時に始末すればいいことです。でしょう?」

「そうだよー
 俺がゼヘルだろうが何だろうが、ぜーんぶまとめてやっつけてあげるからさ☆」

「少佐やっつけるのは構いませんが、ほどほどになさってくださいね?」

その言葉に今まで興味なさ気に事態を傍観していたサングラスの男の雰囲気が一瞬にして変わった。
楽しげに笑う声と顔の中に浮かんだのは誰よりも研ぎ澄まされた殺気。
その様子を見て隣に控えた青年がやれやれとばかりに苦笑を漏らすが、止めるつもりなどさらさらないようだ。

「アヤナミ様の障害となる物をみすみす放置してはおけませんからね。
 出来ますね、クロユリ君?」

優しく諭すようだが、相変わらず有無を言わせぬ声色。
しかしその声に言われるよりもずっと言われた内容を理解している。

「分かってる・・・ちゃんとする。」

「はい、いい子ですね。
 では、皆さんもよろしいですね。」

にこり、素直な肯定の意に先程までのにこやかだが張り詰めたような空気を一瞬にして解いた男性は他のメンバーも見渡して同意を求めた。

「はい。」

「あいよー」

「分かりました。」

全員が意を唱えることなどありえないというように揃えて同意の声をあげる。



「では、全てはアヤナミ様の為に・・・」

「うん。
 アヤナミ様の為に・・・」







大切な大切な主の器。
逃がしはしない。


彼はもう、篭の鳥。

















今月号の裏にこんな話があればいいのに妄想。
クロユリ様が素直にテイトに懐く訳がないと思う。
アヤナミ様の前、とりあえずはしたがってそうですがきっと内心ドロドロだといいそんな妄想。

そしてカツラギ大佐はそれを分かってはいるものの、アヤナミ様史上主義やからぶっちゃけクロユリ様の葛藤なんぞ正直どーでも良い感じ。
でもそれでアヤナミ様の計画に支出が出ても困るからほどよく空気抜きする腹黒妄想。

さてさて、あの同人展開がどーなりますかね?
とりあえずブラックホークが仲良かったら満足な俺がいます(苦笑)(2011/6/26 UP)