「・・・。」
「・・・。」
硬直したままただ見つめあう二人。
片方はこの世の終わりの様な顔をして言葉を失ったかのように口をぱくぱくさせながら。
もう片方は怪訝な顔で自分よりも下にある顔を見下ろしている。
そんな様子にお互い初めて会うという訳ではないのだけれど、反応に困っているというのがありありと伝わってくる。
そしてそれ以上に彼らを見守る周囲も反応に困ってしまった。
我らが参謀長官殿とその長官殿のベグライター候補である少年兵、テイト=クラインが予定もなしにいきなり出会ってしまったのだから・・・
「えっと・・・
とりあえず、アヤナミ様もテイト君も一度座りましょうか?」
そんな誰もが喋りたくないような沈黙を破ったのはカツラギの穏やかな声と立ち上る紅茶の香りだった。
「ちょうど紅茶も入りましたし、ね?」
一度皆落ち着こうと言ってカツラギがしっかりと人数分用意されたティーカップに紅茶を注いでいた。
しかし、全員が色々な意味で固唾を飲んで見守っていた状況の中一人お茶を煎れていたなんてやはりカツラギ大佐という人物はただ者ではなかった。
「どうぞ、アヤナミ様。」
「あぁ。」
執務室の一番奥にあるデスクに座るアヤナミの前には琥珀色の周り美しいゴールデンリングが浮かぶストレート。
「こちらはテイト君に。」
「あ、ありがとうございます。」
テイトには先程いれた分と同じ量のミルクと砂糖。
テイトが美味しいと言っていた量と同じものだ。
他のメンバーにもそれぞれが好む飲み方で入れられた紅茶が行き渡り、しばらくはそれを飲む音が参謀部に響き渡る。
「で、アヤナミ様テイトをいつベグライターにするんですか?」
紅茶を楽しみつつも、いてもたってもいられなくなったクロユリが今回の沈黙を破った。
思わず口に含んでいた紅茶を吹き出してしまったテイトにクロユリのベグライター、ハルセが汚れた机や服を拭いてくれる。
そんな気遣いなど構わず、テイトは奥底からくるどうしようもない気持ちに拳を震わせていた。
「何で・・・」
聞いたことも言われたこともないのに此処に連れて来られた時からずっとそんな目で見られていたのか。
勝手にそんな風に思われるなど迷惑を通り越して呆れてしまう。
「誰が、いつ、何処で俺をベグライターにするなんて言ったんですかっ!?」
「「「「「だってアヤナミ様(アヤたん)が隷属しろって言いましたし(ったもん)」」」」」
「はぁっ!?」
あれの何処をどう解釈すればベグライターになれという解釈になるんだ?
あれを聞いた人間は実験台とかにされるとしか思えないだろう絶対。
しかもしかもしかも!!
「そう言えば言ったな・・・」
「そう言えばぁ!?」
言った張本人のいい加減さにテイトの中に次は怒りが込み上げてきた。
アンタのその無責任な発言のせいでこっちはどんなけ苦労したと思っているんだ。
しかし相手は上官。
しかも若くして参謀長官などという高官を勤めるほどの士官。
怒鳴り散らしたい怒りを抑えに抑え、口々に意見を言い合う参謀部の面々を見つめる。
「少佐ぁ、なんで連れてくる前に事情説明とかしなかったんですか!?」
「あはは〜
それもそうだねぇ〜」
「そうだねぇ、じゃないでしょうが!!」
ブラックホーク内では比較的常識人なコナツがまたヒュウガに詰め寄るが、ただへらへらと笑うだけ。
もうこいつに言ってはいけないと思うがテイトのいらいらは募ってゆく。
しかもその隣では・・・
「アヤナミ様、テイト君はいい子でしたよ。
流石アヤナミ様の見込んだ新人ですね。」
などとカツラギがテイトを褒めてくれていたが、アヤナミが見込んだ?
見込むも何もほぼ忘れていた人物に何を言うんだ。
カツラギの下心が見え見えである。
その証拠に・・・
「何故此処にテイト=クラインだったか?がいる?」
名前もついさっき知ったのだということが丸分かりの参謀長官殿の質問。
そうだろうそうだろう、何せ二回程出会ってはいるがそのどちらもほんの一瞬であるし、会話らしい会話などしていないのだ。
こんな下士官の名前など軍の幹部が知るはずもない。
おそらく勝手にブラックホークの面々がテイトの事を調べていたのだろうと分かった。
じと目でカツラギを睨んで見た所、気づいたカツラギが苦笑しているのがいい証拠である。
全く、当事者のテイトを方ってみんな言いたい放題言っては勝手に騒いでくれる。
しかしこれまで必死に堪えていたテイトの我慢を崩壊させたのは・・・
「だってアヤナミ様、早くベグライターを決めないとミロク様にどっかの馬の骨をベグライターにされるんですよ!」
そんなの嫌じゃないですか、と言ったクロユリの一言であった。
「人に無理矢理ベグライターをつけられたくないからって自分を利用するな!!」
もうこれには敬語すら忘れて怒鳴ってしまった。
偶然出会っただけのテイトに白羽の矢が立っただけなんて迷惑にもほどがある。
大人しく座っていた席を立って部屋を出て行こうとしたが進行をヒュウガが遮る。
「そんなこと言わないでさぁ、参謀部入ろうよテイトくーん。」
「嫌です!」
「うわ、即答。」
ばっさりと断られ、すごすごと引き上げるヒュウガ。
後ろではコナツが無理はいけません、とヒュウガを睨みつけているのにコナツだってテイト君が来てくれたら嬉しいくせになんてやり取りが聞こえた。
しかもコナツが言葉を詰まらせた為、更にテイトの機嫌が下がってゆく。
しかしそれを待っていたとばかりに次はクロユリがちょこちょことテイトの横までやってきた。
「そんなに嫌?」
「い、嫌です!」
クロユリ必殺のうるうる上目使いで迫っても嫌だと即答。
しかしその後ハルセの所に帰ったクロユリがちっと小さく舌打ちをしていたから悪いなぁなんて気持ちにならなくても大丈夫だ。
しかし確かにあのアヤナミ参謀長官に見染めてもらえることは普通に考えれば軍人としてとても嬉しいことではあるだろう。
が、テイトは普通に人生を過ごしたいのである。
それなのにまさかあのブラックホークに入るなんて何処まで平穏と程遠いのか・・・
(俺は戦場なんて嫌いなんだ・・・)
「入りません。」
もう一度はっきりと拒絶の意思を示す。
もうテイトにはブラックホークの幹部に対して本来なら上官にとるべきでない数々の失態をみせてしまっているのだ。
ご機嫌を伺ってイエスと言ってしまってもいいような輩の前であるがもう今更だった。
けれどその頑なテイトの態度こそアヤナミがテイトを気に入ってゆく要因になっているのにも気がつかずに・・・
「ならば貴様が私のベグライターになるように仕向けてやろう。」
「はぁ?」
諦めてくれるように、幻滅してくれるようにと思ったと言うのに何だこの流れは。
しかもそれまで何も言わなかった目の前の参謀長官様はなんだろう、表情は変わらないはずなのに生き生きしているような気がする。
そしてそんな参謀長官は更に言葉を続ける。
「そうだな、2週間の期間をやろうか。」
尊大なセリフだが今テイトの目の前にいる人物が使うと恐ろしいぐらいに似合うその口調。
そして見惚れるぐらいに綺麗に、しかしとても恐ろしさを隠したその笑みに思わず負けたと言ってしまいそうになるがテイトも強靭な精神でギリギリその誘惑を吹き飛ばした。
「2週間、お前が私から逃げおおせたのならお前を私のベグライターにするのを諦めよう。
どうする?テイト=クライン?」
この人物に名前を呼ばれるだけで自分の名前が凄く重く感じられる。
加えてアメジストの切長の瞳がテイトの瞳を真っ直ぐに捉え、逃げることなど許さないとテイトを縛りつける。
しかしどんなに重厚で抗いがたいアヤナミの言葉であろうとテイトの答えはひとつしかない。
「う、受けて立ちましょう!」
ベグライターにならなくて済むのなら何だって受けてやる。
ありったけの勇気を振り絞って出したその言葉に紫の瞳が揺れた。
「良い返事だ。」
(!?)
そう言って満足そうな光を瞳にたたえ、口角を上げて笑った氷の参謀長官の表情に以外だ、なんて思ったことは心の隅に押し込んでおいた。
そんなことよりも絶対にベグライターなんかなるものか、そう心に深く誓いながら今ここにテイトとアヤナミ参謀長官による本気の追いかけっこが始まったのだった。
それは、この一週間続いたヒュウガとのかくれんぼよりもずっと過酷なものになるとは知らずに・・・
ようやくちゃんと喋りましたアヤテイです(苦笑)
いやアヤテイ・・・にすらなってないか・・・(爆)
でも出会いは重要なネタだと思うのでしっかり書きますがね。
しかしこの調子だとカップリング要素のもう一つの重要ネタ、告白してお付き合いまでにどれぐらいかかることか・・・
が、頑張る・・・
予想より長引きそうなシリーズです。
だって軍部皆出したいじゃない。
そしてこの後の展開をちゃんと考えていないので更新率下がりそうです(オイ)
ぼんやりとしか思い立ってないのでさてどうするか・・・
そんなシリーズ、次回も・・・お楽しみに?(2010/2/24 UP)