“べグライター”

幹部補佐として軍上層部の軍人に付き従い、
自身も幹部候補であり、優秀な軍人として認められた証である。

証である・・・筈なのだけれど・・・




「このぐらいの仕事すらできねぇのかよっ!」

そう叫んでテイトに与えられた机に山のように積まれた書類を全て投げ出してストレスを発散できればどんなにいいだろうか。
けれどそんなことをすればテイトの居場所なんて直ぐに無くなってしまうので、ぐっと堪えているが・・・
最初は士官学校を出たての下っ端だから仕方ないと我慢できたものの、最近は明らかにテイトの仕事では無いものの方が多くなっている。

「あいつら、面倒くさい仕事は全部俺に押し付けてきやがる・・・」

テイトに押し付けられたおよそ軍人が裁く書類とは思えない書類。
市外で保護した迷子を無事送り届けたなどの報告書はまだ許せるが、トイレの詰まりが直っただのの報告書なんて正直、時間と紙の無駄だろう。
所詮テイトのいる部署は軍人の花形とされるような戦場に出現を命じられるような部署とは程遠い。
何処ここの内乱を納めた、とかいうような重要な報告書が来る筈もないのだが・・・
まぁそれもあるから親のコネで入隊してきたものの仕事ができない、使えない、命が惜しい、なんて思っているような奴らには形だけでも軍人であると言えて世間体を取り繕える大切な部署といえるだろう。
そんな部署の軍人とも呼べない軍人はこんな書類にかかずらわっているよりも、自分の手柄になりそうな事にだけ血道をあげ、上に胡麻を擦って自分を売り込む方に忙しい。
彼らにとって後ろ盾も何も無く、上を望むことが出来ないテイトは仕事を押し付けるのに格好の存在なのだ。
同じ軍人とはいえ奴隷階級から上がってきたのなら文句など言えないということに他ならない。

「まぁ、分かってはいたけどさ・・・」

戦闘奴隷であった時に士官学校のミロク理事長に才能を認められ、士官学校に入学することができ、そこも卒業して正規の軍人になったとはいえ、それでテイトの過去が消えた訳ではない。
ミカゲのようにそんな過去も関係なく話しかけて来てくれるような人物の方が稀で、テイトはこの人生でミカゲという人物と出会えただけでも感謝すべきことなのだ。

所詮、家の出身や財力がものを言う世界なのである。
個人の才能なんてそれらに比べたらなんの価値もないのだろう。
奴隷階級だったテイトがどれだけ努力した所で、結局地位も成果も家がそれなりの権力を持った士官達が独占してしまうのだから・・・

そんな軍の中において、あのアヤナミ参謀長官は本当に凄い人物なのだろう。
ミカゲから聞いた話では貴族ではあるが貴族と言ってもその地位は微々たるものだということらしいし、ミロク元元帥の後ろ盾があったとはいえ今の地位は実力と功績による所が大きい。
まぁそのミロク元元帥が特にアヤナミに目をかけていたことが既に凄いことではあるのだけれど・・・

まぁアヤナミはアヤナミであって、所詮テイトには当てはまらない事だ。
テイトにアヤナミのような才能は無いし、進んで戦争に関わりたくないと思っているから功績だって期待できない。
このまま使い走りのような仕事をさせられ続けるのだろうと早々に諦めている。
みんな自分のコネを駆使して楽に偉くなりたいのだろう。
そんな人間が多い軍部だからこそ今のテイトの部署のように使えないが立場だけは高い奴らたくさんいる中、異色を放っていた参謀長官直属部隊。
通称、ブラックホークの幹部達は皆仲が良くて楽しそうだった。
特にヒュウガ少佐とそのベグライターのコナツやクロユリ中佐とそのベグライターであるハルセの関係はお互い趣きは違うものの、相方の事を良く理解し、利害ではなく一緒にいるのが見ていて良く分かる。
彼らのその関係はどこか羨ましいぐらいに良好であった。

テイトの周りの直属の上官とそのベグライター達はみんな利害や出世の為にお互いを利用している事が入ったばかりのテイトにも分かるぐらいに顕著だった。
だから奴隷階級だったテイトをベグライターにしたいなど思う上官などいないと思っていた。
あのアヤナミ以外に・・・

「なんで俺なんか・・・」

正直テイトをベグライターにした所で何のメリットがあるというのか。
むしろデメリットの方が大きいだろうに。
テイトには後ろ立てなんてないし、今は軍人とはいえ戦闘用の奴隷から軍人になった身だ。
いくら正規の軍人になったとはいえ、テイトの人生には一生ついて回るその過去。
払拭するには相当な才能と時間と功績がいる。

あのアヤナミ参謀長官以上の・・・


けれども今の部署ではそれを望むことすらできないだろう。
意味のない書類の整理と使いっぱしりのような仕事、地位だけの軍人に良いように使われている様はきっと昔と変わりはしないのだ。
ただ、やっていることが人殺しの戦闘ではないだけで・・・
けれどそれもいつまで続くのか?
今は下らないデスクワークに追われている中でも、毎日軍内の新聞などをチェックしているが戦況が安定しているとは到底言えない。
軍事国家であるこの国では毎日そこここで反乱や戦闘は絶えず起こっている。
いつ、戦力が足りないから戦場へ行けという辞令が出てもおかしくないのだ。
今、軍人として所属している部署が事務系だとしてもテイトにそれを拒む術はない。
元とはいえ、戦闘奴隷という過去は一生纏わり付いて離れないからだ。

「でも・・・それでも・・・」

ミカゲはベグライターになれば良いと言った。
あの部署にいるよりはずっとテイトの事を正しく評価してくれると。
自分ではそんなことは無いと思っているが、テイトは頭が良くて物覚えが良く、才能だってあるし、機転だってきく。
士官学校時代にテイトの事を蔑んだ奴らを見返してやれるし、あの参謀長官のベグライターともなれば誰も何も言えなくなるとミカゲは言う。

テイトもブラックホークに入れば、アヤナミのベグライターになれば何か変わるのだろうか?
今より多少はマシになる?
けれど・・・
「でも・・・俺は・・・
 もう戦場になんて出たくないんだ。」

ブラックホークは戦闘部隊だ。
帝国一と言われる彼らは帝国軍の切り札として泥沼になった戦場に降り立つ。
すると彼らは今までの膠着状態が嘘の様に一瞬で戦場を駆け抜け、敵をなぎ倒し、彼らが通った後には何も残らないともっぱらの噂である。
噂をそのまま信じるほどテイトは馬鹿ではないが、新聞等から得られる情報を見る限り事実ブラックホークが投入された戦場は直ぐに平定されてゆくから彼らの戦闘能力は余程なのであろう。
そんなブラックホークに入ると言うことはテイトが嫌う戦場に自ら足を踏み入れる事と同様の意味を持つのだ。
確かに今よりも待遇は良くなるかも知れない。
望まれてベグライターになるのだから、いつまでも変わらず下らない書類や上司に悩まされずに済むだろう。
しかし今のままこの部署にいれば、いつ戦場への召集があるかという不安はあるけれど基本的に仕事は戦闘と関係の無いものばかりなので戦場への嫌悪は少なくてすむ。
どちらが良いと一概には言えない、そんな合い反する思いを抱きながらもけれどテイトの意志などそこに存在することなど許されない事を知っている。
だから・・・

「テイト=クライン
 お前に出撃命令だ。」

「っ!?
 ・・・はい。」



なぜなら自身は・・・



「久しぶりの出撃だからといって、弛んではいないだろうな?」

使いものにならなければ・・・そう脅しと言っても過言ではない軍人の物言いにテイトが返すべき答えは一つしかなかった。

「・・・分かっています。」



戦闘用の奴隷として軍に生かされている所有物でしかないのだから・・・



「・・・分かって、います。」

いずれ使い潰される運命には変わりないのだ。

できることなら早く解放されたい。
一瞬、頭の片隅に生まれた思いを押し込めて呼びに来た軍人の背中を追いかけた。

何よりも嫌いな戦場に向かう為に。

















よし、ようやく此処まで来たぞ!
長かったですが・・・
しかもかなり間が空きましたが・・・
更に今回超短いですが・・・

ミカ見てはこれからちょっくら新しい展開入ります。
一人まだ絡んでいない人もいますが、さてさて、テイトちゃんは無事に(え!?)アヤナミ様のベグライターになることは出来るのでしょうか?
そしてアヤナミ様は何時になったら出番はあるのか(爆)
絶賛参謀長官室待機中(笑)

ぶっちゃけ相変わらず目的地が見えておりませんが(え!?)ミカ見てにアヤナミ様の時代が来るまでゆるりとお待ち下さいませー(2012/3/20 UP)