「お邪魔しまーす!
・・・ってあれ?」
すっかりおなじみになった参謀部のドアを開いた瞬間俺はこの光景になんだか拍子抜けしてしまった。
いつも俺から親友のテイトの所属する参謀部に遊びにくるが、今日は珍しくテイトから参謀部に来いとのお誘いがあった。
なにか良いことがあるのかと思いながら来たものの、部屋の中は俺の予想の真逆の空気をただよわせていた。
なんていうか、重苦しい雰囲気が執務室の中に充満している。
今日のイベントに似合わないその空気を不思議に思って近くのソファーに転がっていたヒュウガ少佐に聞いてみることにした。
「あの・・・なんかあったんすか?」
「ん・・・
あぁミカゲ君じゃん、どったの?」
いや、どうしたって聞いてるのは俺の方・・・
でもいつも以上にやる気のないヒュウガ少佐にこれ以下聞いてもなんだか無駄っぽい。
いつもなら同じ仕事をサボるにしても楽しそうなことがあれば直ぐに飛びついてくる少佐が、だ。
仕方ないので少佐の質問に俺が答える形になった。
「えと・・・テイトが参謀部でバレンタインをするから来いって・・・」
ソファーでうだったままのヒュウガ少佐にそう答えると。
「生け贄か・・・」
「えっ!?」
まさかまさかのアヤナミ参謀長官の一言。
ヒュウガ少佐のだらけ具合はもはやいつものことでそう気にもしていなかったけど、参謀長官も何か嫌なことでもあるのか?
そういえばいつものように書類にサインをしてるように見えるけど、ちょっとペンの音が乱暴な気がする。
テイトがブラックホークに入ってよく参謀部に遊びに来るようになってから、アヤナミ参謀長官が噂ほどおっかない人だとは思わなくなったとはいえ今の台詞は戦慄を覚えたぞ?
「なんでこんなに暗いんですかっ!?」
もう思い切って核心を聞いてしまった。
何なんだ?バレンタインの何がいけないんだ?
ホーブルグ要塞中が認めるバカップルの宝庫ブラックホークだぞ?
可愛いベグライター(上司)もとい恋人からチョコレートが貰えてうはうはではないのか?
特にヒュウガ少佐なんてコナツさんから貰えるのだと聞いているこっちがムカつくぐらいのテンションで騒いでいそうだし、ハルセさんもなんだかんだ言いつつ可愛いクロユリ中佐のチョコレートをそわそわしながら待ってそうなもんだ。
確かに今のハルセさんはそわそわしてるけど、でも喜びよりも冷汗でそわそわしてるぞ?
「普通にくれるんなら大歓迎なんだけどねぇ・・・」
俺の質問にヒュウガ少佐はいつもの陽気な声のかけらも見えないぐらいに鬱の入った声で答えてくれる。
「手作り・・・するそうです。」
ヒュウガ少佐の言葉を引き継ぐハルセさんの声にも覇気がない。
しかし手作りって・・・
「誰が・・・」
「テイトとコナツとクロユリ以外の誰がいる?」
最後を引き受けてくれたのはなんとアヤナミ参謀長官。
いつもの大変よろしいお声がなんだか更に低くなっているのは俺の耳がおかしくなっているのだと思いたい。
しかし執務室に三人の姿はなく、いつも俺が遊びに来れば喜んでお茶だのお菓子だのと言って、まさに大佐の城である備えつけのキッチンへと向かうカツラギ大佐が部屋に留まったままだ。
と、いうことはキッチンに入れない事情がある。
事情=テイト達がチョコレートを作っているということに間違いはないのだろう。
「それって・・・」
クロユリ中佐の味覚異常はもう有名すぎるぐらいに有名だし、それに付き合い尚且つ美味しいなどと言ってしまえるコナツさんの味覚も正直正常ではない。
しかも味覚は一応普通だが、料理全般がアレなテイトが揃ってキッチンにいる。
ブラックホークに入ったばっかりの頃、テイトがいれたというコーヒーを飲まされたが、あれはとんでもない代物だったよ・・・
そんな3人が力を合わせてチョコレートを作る・・・完全死亡フラグじゃねーか!!
どんなおぞましい物体をチョコレートだと主張して食わせようとしてくるのかわかったもんじゃない。
しかも何故かあの3人がつるむと断れないのだ。
悪意のかけらも無いあの3人の組み合わせはこんな時この上なく厄介な代物でしかなかった。
「お、俺先輩から頼まれてた仕事を思い出して・・・」
こうなれば早くここから逃げようそうしよう。
しかし回れ右をしようとした俺の肩はものすごく強い力で押さえつけられて動くことさえできない。
唯一動く首で元凶を振り返ると・・・
「逃がさないよぉミカゲくうん。」
「そうですね、4分の1より5分の1ですから・・・」
にこにこ笑っているはずなのに目が笑っていないヒュウガ少佐と、いつの間に少佐と逆の方にやってきていたのかいつも以上にいい笑顔のカツラギ大佐に両脇を固められてしまえばもう逃げ場なんてない。
向こうでハルセさんがごめんなさいと両手を合わせているのが見えればもう何をしても無駄なのだろう。
しかも止めとばかりに参謀長官様が・・・
「諦めろ・・・」
とおっしゃってくれてしまえば諦める以外に道はなかった。
つーか、アヤナミ様、それ自分に言い聞かせてないか?
言い聞かせるならテイトをなんとかしてくれよ。
と思ったけど言えるはずなんてないから心の中だけにしておいた。
テイトに甘く、ベタ惚れの参謀長なんか敵に回したくない。
テイトもテイトで無自覚にのろけてくれるから始末に終えないんだよこのコンビは!
かくして・・・
クロユリ中佐、コナツさん、テイトの参謀部最強の可愛い(やってくれる事は決して可愛くないが)部隊が作ったバレンタイン特製マグロチョコの卵あんかけ黒蜜風味キャビア乗せを完食するまで俺は自分の部署に帰る事ができなかった。
そして俺は色々な意味で理解した。
参謀部直属部隊からは決して逃げられないのだと。
ごめんテイト・・・
お前がなし崩しにブラックホークに入っちまった訳が分かったよ。
あの人たちに絡まれたらもう逃亡しようなんて気持ちを根こそぎもって行かれていまう。
まぁ、今は色々と幸せそうでよかったけど・・・
なんて事を思いつつ、帰って早く胃薬を飲もうと自分の部署に帰る足を急ぐのだった。
来年からは断ろう、そう固く誓いながら・・・
はっぴーバレンタイン?
あんまりハッピーじゃないって?
大丈夫、味より愛情です。
きっとミカゲ以外はあーんして食べさせてもらえますよvv
そして色んな意味で泣くのです。
私はいらんけどな(爆)
きっと後でカツラギ大佐がチョコケーキかクッキーを焼いてくれるのを貰いに行くんだ。
クリスマス同様バレンタインも二次創作のネタとしか年々思えなくなってきた霧立でした〜〜
自分用チョコ買いにいこ。(2010/2/11 UP)