触れてみたいと、

ただそう思った・・・








「テーイト!!」

「うわっミカゲっ?
 いきなり飛び着いてくるなよ!!」

後ろからがばりと小柄なテイトに抱き着いたのはテイトの士官学校時代からの親友。
偶然目の前にいたテイトを見つけて嬉しそうに駆け寄ってきたのだろう。

しかしいきなり抱きつかれたテイトはびっくりしてミカゲについ文句を言ってしまったが、その表情は嬉しそうに緩んでいるのがよく分かる。
ホーブルグ要塞にあがって仕事を初めてからなかなか会える機会のなかった友人に会えてテイトも嬉しいのだ。
色々話したいことはあるのだけれど、けれどテイトは今・・・

「何をしている?」

「アヤナミ様っ!?」

テイトは今までアヤナミの会議が終わるのを部屋の外で待っていたのだ。
つまりテイトは仕事中。
しかもベグライターとして仕える直属の上司が目の前にいる。

「何をしている?」

いきなりのアヤナミ参謀長官殿のご登場にテイトの背中から抱き着いたまま固まってしまった。
反応のない二人に同じ問いが先程よりも低い声で問い掛けられる。
機嫌のよろしくないと良く分かる声はミカゲの親友の名を呼ぶ。

「テイト、お前は私のベグライターだろう?
 何を油を売っている?」

そしてその低音が次に告げたのは・・・

「貴様も就業中だと思うが?」

声とともに迫力満点の美貌が次はミカゲの方に向けられる。
その刺すようなアメジストの目線に睨みつけられて怯まない方がおかしいだろう。
某少佐は別として、ミカゲも例に漏れず、アヤナミの視線に怯えるしかできなかった。

「えっとその・・・」

「すみませんアヤナミ様っ!!」

ミカゲがたじろいでいる間にテイトが自分の首に回された腕をさっと振り払いミカゲから離れてアヤナミの側に行った瞬間、殺気が薄れた。

そして・・・

なんというか、あのアヤナミ参謀長官が満足そうに傍にいるテイトを見ているようにミカゲには感じられた。
さっきまで自分を射抜かれ、殺されるのではないかと思ってしまうような参謀長官の目線はテイトが離れたことで一気に消えてなくなった。
それはまるでミカゲなど初めからいなかったような変貌ぶりだ。

(これは・・・
 なんていうか・・・)

一瞬ミカゲの脳裏に浮かんだ考え。
まさかと思う。
自分の勘違いだろうと。
けれど参謀長官にどんな意図があれ、確かに今のテイトは仕事中だし自分も用事を済ませて部署に帰らなければならない。

「ま、頑張れよテイト!」

とにかく色々な意味で大変だろう参謀長官のベグライターなんぞを勤めている親友にエールを送ってミカゲはその場を後にした。
サボっていると咎められるか、はたまた馬に蹴られる前に。











「テイト君はちっさいねぇ。
 ちゃんとご飯食べてるのかなぁ?」

ソファーに座りカツラギ大佐の作った大福を幸せそうに食べているテイト。
その後ろからいきなり顔を出したヒュウガがその頭をぽふぽふと叩く。

「た、食べてますよ!
 っていうか、頭叩かないで下さい!!」

背が伸びなくなるとテイトは怒るが、悪びれもせずにヒュウガは笑う。

「ゴメンゴメン。
 でもテイト君ってつい頭撫でであげたくなるんだよねぇ〜」

ちょうど良い身長なんだよね〜〜そう言って再びテイトの頭に手を伸ばそうとしたが・・・

「ぎゃぁっ?
 ちょ、アヤたんいきなり何?」

その手はアヤナミによって阻まれ、再びテイトの頭を撫でることはなかった。
けれど、鞭に打たれたはずのヒュウガは逆に楽しいと言わんばかりの表情になってゆく。

「なになに?
 もしかしてアヤたん、ヤキモチ焼いちゃったー?」

アヤナミの座っている席に近づくとアヤナミにだけ聞こえる声でとても楽しそうに告げた。

「ヒュウガ・・・」

そんなちゃらけたヒュウガの台詞に一気に下がったアヤナミの声のトーンに怖い怖いと言いながらおどけるように部屋を出てゆく。
テイト君も大変だねぇと意味深な言葉を残して。








残された二人はそんなヒュウガの言葉に悩まされていた。
テイトは何が大変なんだろうと思うだけであったが、問題はアヤナミであった。


ヒュウガがテイトを構うから、ミカゲがテイトに抱きつくから。


新しくアヤナミのベグライターになったテイト=クラインにはそんなにも人を寄せ付ける特性でもあるのだろうか。
ただそう思っただけだ。
ヒュウガの言うような感情などある筈がない。

そう結論付けるが二人がテイトにベタベタするのが何故か気に食わない自分もいる。
わからない感情の中、難しい顔をしたままのアヤナミに大丈夫ですかと言ってテイトが傍に寄ってきたのが見え・・・

「え?」

「・・・。」

テイトに向けて無意識に手を伸ばしていたことだろうか、それとも伸ばした手を避けられたことにだろうか。
今までに感じた事のない驚きと戸惑いがアヤナミの感情を支配する。


そしてその感情はテイトにも・・・


いきなり仕えるべき上司から差し出された手。
らしくないアヤナミの初めての行動に驚き、思わずその手を避けてしまった。
けれど、その時のアヤナミの顔が何故か寂しそうだと思った。
何故かはわからない、けれど氷と称される上司の表情は確かに何か喪失感やそういった類のものがあると思った。
手を避けなければよかったと・・・

「嫌か?」

しばらくしてアヤナミがそう問うてきた。
伸ばした手を避けられたことに何故か悔しいと思う自分がいる。
それをぼんやりと感じながらテイトの反応をみる。

「えっと・・・あの・・・
 嫌では・・・ないです。」

びっくりしただけ、アヤナミらしくないと思ってしまったから。
けれど、テイトはアヤナミをそれ程理解しているのだろうか?

「では何故?」

続くアヤナミの言葉。
これは聞いたアヤナミも聞かれたテイトもその行動に驚きがあった。
何故なんて、どうして聞いてしまったのか、どうして避けてしまったかなんて・・・

「ちょっと・・・びっくりして・・・」

普段からヒュウガに制裁を与える手。
一切の情を込めずに敵を切り裂く腕。
そう思っていた、でも・・・

「嫌か?」

もう一度同じように延ばされた手がテイトの頬にそっと触れられる。
手袋越しのアヤナミの指先がまるでガラスに触れるかのような柔らかさでテイトの頬を撫でてゆく。

「いえ、嫌じゃないです。
 あったかい・・・」

何故この手を怖いと思うことがあったのか・・・
人より少しだけ冷たいけれど確かに温かいアヤナミの手。

「そうか・・・」

猫の様に目を細め、大きなアヤナミの手に擦り寄るように頬を押し付けるテイト。
まだ柔らかい子供の頬はとても温かく、その温かさはアヤナミの指先から染み入るように伝わってくる。

「お前は・・・」

「はい?」

「いや、何でもない・・・」

この感情の名は知らない。
けれどこの感情の理由は分かる。
テイトに触れたから。
そしてずっと触れていたいと、ただそう思った。

「しばらく、このままで・・・」

「はい。」

そう言って重ねられたテイトの手。


お互い手袋越しの手だけで今はまだ・・・








触れてみた手は、

ただ、温かくてとても優しかった。

















すみませんアヤナミ様片思いとか無理でした(オイ)
アヤナミ様片思い難し過ぎました。
私にはまだ修業が足りませんでした本当色々申し訳ないです。
自分でどんなネタが良いですか?と聞いておきながら何してるんだってはなしですほんとスミマセン(汗)

しかもいつの間にかテイトちゃんも片思いっぽくなってて、あれれどうしよう(滝汗)
しかもテイトちゃんのがベクトルでかくないか?
あれ?リクエスト行方不明?(2010/4/17 UP)