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注:一作目のオリキャラちゃん(女の子の方)視点になってます。
バスケ部の顧問にお嫁さんがいた。
しかもかなりの美人。
さらにその美人のお嫁さん似の美少女な娘が二人もいたという。
休み明けの私立海常高校で密かに、けれど熱を帯びて囁かれているこの話題に彼女は苦笑を盛らすばかりであった。
事の起こりは彼女がマネージャーとして所属している男子バスケ部が休日であった昨日、他校と練習試合をする為 に待ち合わせをしていた駅で起こった。
寝坊してしまったという選手を探していた彼女は件のバスケ部監督のお嫁さんと出会ったのだ。
娘さんの1人が迷子だというお嫁さんと一緒に駅構内を探し回ったのだが、お互いに探している人の姿は見当たらず、どうしようかと八方塞となった時に同じくマネージャーをしている彼女の友人がくれた電話で彼女が確信に近い疑問を持った時のドキドキ感は日を跨いだ今日も鮮明に覚えている。
すごい偶然もあったものであるが、彼女が探していた1年先輩の選手が連れてきた迷子の女の子が我が海常高校男子バスケ部顧問の娘さんで、更に彼女が出会った女性の娘さんでもあったのだ。
ということは顧問と彼女の横にいた人はご夫婦という事で・・・
驚く彼女の前でそのお嫁さんが顧問の先生に飛びつくように抱きつきに行ったことも衝撃だった。
家のことを喋ったことの無い顧問だったので尚更、テレビで見る女優もかくやという美人この光景は部員達にとって大きな衝撃にならざるを得なかったのである。
そしてこんな話題に満ちた光景を目の当たりにした部員が翌日、昨日あった事を誰にも喋らない筈がなく昼休憩を迎える頃にはすっかり学校で一番の話題となっていた。
当然、マネージャーとはいえバスケ部に所属している彼女も質問のターゲットとなり・・・
「ねぇねぇ、笠松先生のお嫁さん見たんだって?」
「うん、見たよ?」
あぁ、皆して何処から聞きつけてきたか知らないが何度この質問をされたのだろう。
数えるのも飽きるぐらいに聞かれた質問に一番最初に聞かれた時に自分は見なかったと言っておけばよかったと後悔している。
しかし見た以上に彼女はそのお嫁さんと一緒に先生の娘さんを探していたとは言わないでおく。
言えば更に騒がれる事だろう。
「ね、めちゃくちゃ美人だったってホント?」
「二人も子供いるんだって?」
1人が彼女に質問したことで自分では聞く勇気が無かったが気になっていたのだろう他の女子までもが彼女の席の周りに集まってきてしまった。
あぁ、チャイムと同時にお弁当を持ってどこかへ逃げてしまえばよかったと更なる後悔が生まれるが、最早逃げられそうに無い。
誰が声を掛けたか分からないが、いつもはあまり喋らないようなクラスメイトまでがお弁当を持って彼女の回りに集まって机を寄せ合って、彼女の話を聞く準備がすっかり整っている。
確かに彼女も昨日目の前で起こった光景を誰かに喋りたくて仕方なく、家に帰って母親に語ってしまったぐらいに興奮していたが、その多大勢の前でぺらぺら喋っていいものか・・・
個人情報保護法とか大丈夫なのだろうかと戸惑ってしまうのも仕方ないだろう。
(でも確かに綺麗な人だったよなぁ・・・)
背は170近くあっただろうか?
手足は長くてすらりとしていて、色素が薄く金色に見える髪の毛はサラサラ流れるような光沢を持っていた。
顔立ちもマスカラなんていらないだろう長いまつ毛に薄いけれど綺麗な形の唇に・・・上げていくとキリがないが、一番お洒落に敏感な年頃である高校生の女の子が羨む要素を全て持っているんじゃないかというぐらいに綺麗な女の人。
あの人を一言で表すならば・・・
「モデルみたいだったなぁ・・・」
まだ小さな子供連れだったせいか高いヒールは履いていなかったものの、すらりと伸びた足は迷い無く歩みを進め、背筋も上から吊り上げられているようにピンと伸ばして歩く様は人目を引いていた。
そんな人の隣に並んで歩いていた彼女は身の置き場に大変困った。
正直、背も体型も彼女はギリギリ平均という所だと自分でも思っているから尚更そのお嫁さんに臆し、そして同じぐらい彼女に見とれてしまったものだ。
しかし思わずぽそり、と零してしまった一言がいけなかった。
噂好きの女子高生の集団が小さな呟きを聞き逃すなどしてくれず、畳み掛けるように彼女を質問攻めにしてくる。
皆、興味深々なのは分かるが、彼女はかの有名な聖徳太子ではないからそれら質問を全て聞き分けることなど出来ない。
「お昼食べよう・・・って何、会議?」
何も言えないほどの質問攻撃に心底困っている時に表れたのは隣のクラスの友人。
しかし彼女と同じバスケ部のマネージャーであるこの友人は昨日の電話の際、遅れてきたバスケ部員やその彼を探していた彼女の心配をそっちのけで顧問の娘さんがいかに美少女であるか熱心に語って聞かせてくれた当人であったことをすっかり失念していた。
「写真あるよ?見る?」
なんて言い出してしまうものだから状況は悪化する一方だ。
というかいつの間にカメラを構えていたのだろう。
隠し撮りとか監督にみつかったら絶対に怒られるだろうに・・・と思うが集まってきた女子はキャアキャアと騒ぎながら友人のスマフォを覗き込んでいる。
彼女も横目で確認したそれは穏やかな顔の顧問がお嫁さんの頭を撫でているところで・・・あぁ、確かにこの時は自分も甲高い声を上げてしまったなぁと思い出す。
抱きついた時の写真じゃなくてよかったかも知れない。
「ねぇ、これキセリョじゃない?」
「キセリョ?」
お弁当を開いては見たものの、中身そっちのけで友人のスマフォを回し見していたうちの1人がそう言って声を上げた。
それに誰それ?と半数ぐらいは知らない様子だが、数人の女子はその声にそうだよと!いう同意や、嘘!?とかいった驚愕の反応を示している。
彼女もその名前を聞いたことが無いうちの一人で、何とか広げることのできたお弁当の卵焼きを口に放り込んで首を傾げた。
その反応を受けた声を上げた女子生徒が言うにはそのお嫁さんもといキセリョ・・・黄瀬涼子さんは高校生の読むような雑誌にはあまりなじみの無いモデルだが、今は20代後半から40代の働く女性をターゲットにしたファッション誌の方で活躍しているらしい。
子供が二人いるという彼女の年齢を考えれば確かに高校生の見るような雑誌で見たことが無いのも頷ける。
彼女を知っていた女子生徒も年の離れた姉がキセリョのファンだと言って雑誌やブログをチェックしているから知っていたという。
けれど小さい頃からモデルをやっていた先生のお嫁さんは中高校生の頃はティーンズ向け雑誌で顔を見ない所は無かったというぐらいに活躍していたらしいのでかなりの有名人のようである。
「でもキセリョって凄いんだよ?
テレビには出ないけど海外のショーとか出てるし、色んなジャンルの雑誌の表紙総なめにしてるってお姉ちゃんが言ってた。」
赤ちゃんの頃に出た育児雑誌の表紙に始まり、自身の成長に合わせて中高生向けからOL向けのファッション誌のモデルを務め、結婚発表時にはブライダル雑誌、妊娠発覚時にはマタニティー雑誌、果ては中学・高校の時に選手として活躍していたバスケット専門誌の表紙までもを飾ったそうで・・・
そう言われるとテレビ出演は無いとはいえ、モデルとしてはかなりの有名人なのだろう。
ちなみに最近は育児ブログが母親世代に絶大な人気だそうだ。
なんでも新商品のレビューが早くて的確で商品の開発担当者もチェックしているらしく、彼女のコメントとブログに寄せられた声を参考に発売された商品まであるそうだ。
業界の人って凄いとさっきまでの黄色い声がなりを顰めて感嘆の声が上がる。
しかし女子高生の話題は尽きないもので、また1人の少女が漏らした疑問に場の話題が塗り替えられてしまう。
「でもなんで先生と結婚したのかなぁ・・・」
「ねー?
先生、顔は悪くないしカッコイイけどイケメンって訳じゃないもんねー」
確かにイケメンというわけではないけれど、同じ年頃の教諭らと比べるとバスケ部顧問はカッコイイ部類に入るのだ。
背は強豪バスケ部員の中に埋もれてしまえば目立たないし、本人曰く現役の時に比べると大分筋肉は落ちたと言うけれど、全校集会などで他の教員の中に並んでいるときに見れば背も高いし引き締まっていると思う。
それに彼女は実際この目であの夫婦を見たが、とてもお似合いで羨ましいと思うぐらいに幸せそうに見えた。
お母さんを見つけて走って行ったりお父さんにがんばって手を振っている娘さんも可愛かったし、自分も将来こんな家族になれたらいいなぁなんて思ってしまった。
その後、あの天使のような娘さんの口から飛び出した爆弾発言はまだ色々と彼女の心の整理がつかないので、決心が付くまで忘れさせて貰うことにする。
しかしその時に言っていた事を思い出してしまったのは本日二度目の不注意だった。
「そういえば、先生の娘さんがパパとママは高校の時の先輩と後輩だって言って・・・」
「「「「「えぇぇぇぇ~~~!?」」」」」
しまったと思ったが時すでに遅く・・・
一旦大人しくなった筈の周囲は再び嵐に包まれる。
「高校の時の先輩後輩って、キセリョ海常のOG!?」
「嘘!?同じ制服着てたの?
ちょっと自信ついたかも・・・」
バスケ部の顧問がこの学校のOBなのは初めて授業を受け持った時の紹介で彼女も聞いたことがあるぐらいに有名な話だ。
そうか、だったらお嫁さんも海常の卒業生なのか。
その後に可愛らしい声で告げられた内容に全てを持っていかれて気が回らなかった。
そして海常は歴史の長い学校のせいか、何10年か前から変わらない上下とも灰色のブレザーに黒いネクタイの制服は女子には可愛くないとあまり人気が無い。
しかし人気モデルが着ていたなら話は別だ、口々に今日から自慢しようと言う声が上がる。
それらの声は話を聞きつけたほかのクラスメイトにまで興奮は伝染し、昼休みの終了を告げる予鈴の音を掻き消すぐらいに大きくなっていた。
生徒達には幸いだが、当事者には最悪だろう昼休み開け5時間目の彼女のクラスは件のバスケ部監督の受け持つ授業である。
教室に入った瞬間、騒がしさが頂点に達した生徒に注意を促す前に女子生徒に囲まれて質問攻めにされた顧問を見て、彼女はごめんなさいと心の中で謝るのであった。
でも少し二人の馴初めも聞きたいなぁと思う。
その理由が気になるバスケ部の先輩へ対するアプローチの参考になるかもという想いがあることは暫く彼女だけの秘密だ。